健康栄養学科

2020年 2月号

お酒の強さにかかわる遺伝子を調査! ーゼミ探訪シリーズ(2)ー

今月号は、健康栄養学科(2019年4月、食物栄養学科より改組)ゼミ探訪シリーズ第2弾。「分子生物学ゼミナール」を訪問してきました!

分子生物学ゼミナール

堀江教授の「分子生物学ゼミ」では、栄養素の代謝に関係する遺伝子について研究を行っています。今回は、その中のテーマの一つである「アルコール代謝関連遺伝子多型性の栄養指導への応用」について紹介します。この研究では、ヒトのアルコール代謝、例えばお酒に対する強さにかかわる遺伝子を調べ、栄養指導や健康増進につなげるための研究を行っています。具体的に、どのようなことを行っているのでしょうか。

ヒトでのアルコールの代謝とアルコールへの感受性の違い

ヒトのアルコール代謝、つまりお酒を飲んだ時の酔いやすさには、個人差のあることが知られています。お酒の中のアルコール(エチルアルコール)は、体内で2段階の代謝反応を受けます(図1)。まず、エチルアルコールが酸化され、アセトアルデヒドとなり、次いで酢酸となります。この反応は、2つの遺伝子、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(ADH1Bという名前がついています。)とアルデヒドデキドロゲナーゼ2(ALDH2)と呼ばれる遺伝子の産物が行います。分子生物学ゼミでは、これらの遺伝子の個人個人の違い(多型性※)に着目し、遺伝子の多型性部位の解析とアルコールパッチテストを用いて、遺伝子の多型性がアルコール感受性に与える影響を調べ、それをどのように健康増進へとつなげていくかについて研究しています。

※遺伝子多型性とは、遺伝子を構成しているDNAの配列の個体による違いのことで、集団の1%以上の頻度を持つものを指します。多くの遺伝子多型は、遺伝子の機能に影響を与えませんが、ごくまれに産物のたんぱく質のアミノ酸を変化させるような多型性の中には、その人の体質に影響を及ぼすものがあります。

図1. アルコールの代謝経路

遺伝子の違いと体質の個人差

遺伝子の多型性は、ヒトの体の性質に影響を与えることはまれですが、髪の毛の色や血液型などのいわゆる体質に影響を与えることがあります。これを調べるために遺伝子のもとになるDNAを採取する必要があります。この実験では、ヒトの髪の毛やつめからDNAを取り出します。次に、PCRという方法を用いて特定の部分のDNAを増幅し、塩基配列の違いを調べます。アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH1B)には、塩基配列の違いからAA型(高活性)、AG型(活性)、GG型(低活性)の3つのタイプ(これを遺伝子型と呼びます。)があり、またアルデヒドデヒドロゲナーゼ2(ALDH2)にもNN型(活性)、ND型(低活性)、DD型(不活性)の3つの型があります。これらの遺伝子型の違いは、人のアルコール感受性、つまりお酒への強さに影響を与えます。 お酒への強さは主に、ALDH2の遺伝子型で決まるとされており、NN型の人は酒に強く、ND型のヒトはやや弱く、お酒を飲むとすぐ顔が赤くなります。また、DD型のヒトはお酒が飲めない体質といわれています。

パッチテストからわかること

未成年者や、お酒を飲めない人は、そもそもお酒に対する強さをはかることができません。お酒を飲まずに、アルコールへの感受性をはかる方法として広く用いられている方法にアルコールパッチテストがあります(図2)。お酒の害を防ぐために事前にこのテストを行い無理な飲酒を避けることが推奨されています。

この研究では、遺伝子を調べることのほかに、アルコールパッチテストで遺伝子型をどの程度予想できるかを検討しています。その結果をまとめたのが図3です。この結果を見ると、アルコールパッチテストはALDH2遺伝子の多型性と相関性が高く、さらにADH1B遺伝子の多型性も、アルコールパッチテストの結果に影響を与えていることが分かります。

図2. アルコールパッチテストについて

図3. アルコールパッチテストと遺伝子型

まとめ

お酒に強い人(酔わない人)と弱い人(酔いやすいまたは飲めない人)のいることは、日本では古くから知られていました。江戸時代に書かれた「養生訓」にも、「お酒には弱い人がいるので、むやみに勧めてはいけない」、といった記述がみられます。ところが欧米の文献にはあまりこれらの記述があまりみられません。これにははっきりとした理由があって、実は、ALDH2のお酒に弱いタイプの遺伝子は、中国と韓国、日本にしか見られないのです。そのため、日本人のアルコールの害は日本特有の問題として扱う必要があります。お酒の害にはいろいろありますが、最も心配なのは、お酒に弱い人の飲酒量が増えると喉頭がんなどのリスクが高まることがあります。文献には、お酒に弱い人が飲酒を控えると、日本の喉頭がんの約6割が防げるという報告もあります。アルコールパッチテストなどの結果を踏まえた、飲酒についての食事指導や栄養教育を早くから行うことで、がんを含む多くの病気を防ぎたいというのがこの研究の最終目標です。

ゼミ生の声

家政学部 食物栄養学科 4年
小池 杏佳 さん

―この研究を始めたきっかけ・研究内容―
私は「アルコール代謝関連遺伝子多型性の栄養指導への応用」という、お酒に強い体質か弱い体質かを遺伝子を通して調べ、栄養指導へどうつなげるかという研究を行っています。私がこの研究を選んだきっかけは、授業で行った実験がとても面白く、もっと深く知りたいと思ったことです。この研究は、自分のDNAに含まれるアルコール分解遺伝子の型を調べたり、アルコールパッチテストを行い遺伝子型との相関をみたりしています。

―高校生へメッセージ―
私は研究をしていて、何度も失敗してしまいました。しかしその失敗をまた違う実験につなげて結果を得られるというところが研究の面白さだと思います。また、自分がお酒に強いか弱いかは誰しもが知りたいことだと思うので、それを自分の手で実験をして結果が出たときはとても達成感がありました。この達成感を皆さんにもぜひ味わってほしいと思います。

このゼミを担当している先生

健康科学部 健康栄養学科
堀江 信之 教授


―大学での勉強について―
大学に入ると、専門的な知識を身につけるための授業や実習が多くなり、学生たちも個人個人の興味に従って、自らの専門性を高めていくことが期待されます。高校生までは、共通の事柄を、一定の基準まで学ぶことが求められますが、大学では、個々の人がどれだけほかの人と違うことを学べたかが問われることになります。研究もそうですが、自らの興味と関心を高め、自分が疑問と思うことをとことん追求することが必要だと思います。

―高校生へのメッセージ―
AIやインターネットの普及による高度情報化社会では、文系、理系の知識という分け方は意味を持たなくなりつつあります。分野を超えた広い視野からの学びが重要だと思います。特に管理栄養士は、食を中心とした広い立場から、人々の「幸福」を増進していくことが求められます。単に健康とは何かということのほかに、幸福とは何か、人生で何を最も大切に考えるべきか、ということも問題にしなければならないと思います。高校での学習でも、広い分野に興味を持つとともに、幸福や健康といった人間の内面や意識の問題についても、しっかりとした考えを身につけてもらいたいと思います。