学部学科トピックス

2022.12.05
作業療法学科

【研究者紹介】「認知症高齢者の『生活の質』向上をめざして」 中西 康祐 学科長

本学の教員が、研究者としてどのような研究をしているかインタビューした「研究紹介」シリーズ。今回は中西 康祐 学科長です。

 

医療科学部 作業療法学科 中西 康祐 学科長

専門分野
認知症の作業療法

◆研究テーマ
認知症高齢者に対する根拠に基づく生活支援の効果




Q 研究内容について教えてください

 認知症高齢者が介護者の適切な支援によって、残された能力を発揮して「やりたいこと」に携わることで生活の質(QOL)が向上し幸せな余生を送れるかを研究しています。
 人は誰でも、自分がやりたいことをすることで充実感や満足感が生まれ、QOLの高い生活を送れます。しかし、認知症を発症すると、記憶の障害や理解力・判断力も低下し、時には意欲も低下し、これまで当たり前にできていた「やりたいこと」ができなくなり、発症前と同じような生活が送れなくなってきます。
 こうしたことが生活の色々な場面で増えてくると、介護者である家族や施設職員は「このままで良いんだろうか?」と苦慮し、その状況をうまく改善する方法がわからないまま時が過ぎてしまうという現状があります。
 そこで、作業療法士が施設の介護職員と連携し、作業療法士がプランニングした生活支援の手順に沿って、調理活動や野菜の栽培など「本当はまだやりたいこと」や「少し手伝ってもらえればまだできること」を抽出し、介護職員がそれを支援して「やりたいことができている状態」にすることで、認知症高齢者のQOLは向上するかを検証しています。

 

Q その研究を始めたきっかけを教えてください

 高齢者の生活支援の福祉職に従事していた時に「経験則だけではない根拠に基づく支援の必要性」を感じて、医学的見地から生活支援ができる作業療法士となり、在宅復帰施設で高齢者のリハビリテーションに従事してきました。
 その中で、大学で習った教科書に載っていることはできても、どれだけの根拠があるのかわからないこともありました。さらに、臨床現場で起きている認知症高齢者の生活の課題を解決する方策については、自分の頭の中に浮かんだ支援のアイデアが対象者にとって本当に有効なのか、何に対して有効なのかわからない、先行研究を検索してもわからないという機会に直面することが増えてきました。
 そこで、しっかりと地に足をつけて「認知症高齢者に対する根拠に基づく生活支援とその効果」について研究する必要があると考え、臨床から研究に軸足を移しました。ただ、研究の意義は、臨床で起きている課題を研究で明らかにし、臨床に還元することであるため、臨床で働く作業療法士や介護職の方々とは常に連携しながら研究を進めています。

 

Q その研究が『未来にどう生かされてほしいか』教えてください

 超高齢化社会にある我が国において、「老い」に関する課題は避けては通れません。人は誰でも必ず老いを迎えます。老いていくと心身の不調だけでなく、身近な人との死別や社会での役割を失う傾向にありますが、認知症を発症するとこれまで自分で出来ていた身のまわりのことができなくなり、さらに辛い生活になってしまいます。また、介護者の介護負担も増大し、体力だけでなく気分の減退が生じ、お互いが幸せな状態でなくなってしまいます。
 本研究によって「根拠に基づく生活支援」の方策が明らかになれば、認知症になっても適切な支援によって「やりたいことができている状態」に改善することが可能になり、認知症高齢者だけでなく介護者もQOLの向上が期待できます。介護職員に至っては、やりがいの向上、介護負担の軽減が期待でき、長く介護の仕事が続けられると考えています。
 さらに、作業療法士と介護職員の連携によって「介護の質」が向上すれば、介護する側とされる側が良好な関係を築くことができるため、本研究の成果が世代間の良質な共存関係による豊かな高齢化社会の実現の一助になればと考えています。

 

◆高校生へメッセージをお願いします

 医療専門職は対象者から直接感謝されるやりがいのあるオススメの仕事ですが、皆さんはまだまだ若く、将来の自分の姿が描けていない人がほとんどだと思います。それが当たり前ですし、逆に言えばそれだけ前途洋々な可能性が広がっているということです。一度や二度のつまずきや失敗にビクビクせず、自分の良さとやってみたいことを少し考えてみて、「これかな?」とイメージできれば、まずはそれを目指してみてはどうでしょうか。

 

プロフィール
医療科学部 作業療法学科 中西 康祐 学科長
文系の大学に在籍時、元々は対人支援の仕事に興味があったため、知り合いの紹介で高齢者施設で働く機会を得て、食事や入浴、トイレの介助など色々な経験をしました。その経験を踏まえて卒業後は、福祉職としてホームヘルパーの派遣事業に携わり、在宅で暮らす高齢者の生活相談業務を担いながら、食事の準備や掃除、洗濯、入浴介助、トイレ介助といった生活支援をしてきました。このような支援は、蓄積された経験則が有効なことも多く、実際に対象者の方から喜ばれることで、やりがいを感じていました。
しかし、より支援の質を高めるには、経験則に加えて客観的な根拠に基づく支援が重要ではないかと考えるようになりました。そこで、その実践のために医学的見地から生活支援に携われる国家資格である作業療法士の免許取得を目指そうと決め、再び大学に入り学び直しました。
免許取得後は高齢者施設で根拠のある生活支援を考えながら作業療法に携わり、現在は大学教員の立場で「認知症高齢者に対する根拠に基づく生活支援」にフォーカスした研究を行っています。