学部学科トピックス

2023.03.16
短大 保育学科

【研究者紹介】「学校や保育園を魅力的な場所に」 前田 舞子 助教

本学の教員が、研究者としてどのような研究をしているかインタビューした「研究紹介」シリーズ。今回は前田舞子 助教です。

 

短期大学部 保育学科 前田舞子 助教

専門分野
教育哲学、人間形成論

◆研究テーマ
人間形成における「美的経験」の意義に関する研究




Q 研究内容について教えてください

 教育者(保育者)をめざす者にとって、被教育者たる子どもを理解することが不可欠です。子どもたちは様々な刺激(教育によるものも含む)を受けながら、成長していきます。ある刺激を受けた子どもたちの内面において、どのような「作用」や「反省」が起こっているのかを解明すること、すなわち、子どもの自己形成過程の解明が私の研究テーマの1つです。教育を受けたからといって、すべてを身につけ、実践をすることには限界があります。また、同じ教育を受けたとしても、人により理解に差が出ることや、異なる価値観を持つことは当然でしょう。つまり、教育者が、文化や生活様式を伝達することや何らかの要求をすることと、それを受けて被教育者が自己形成を始めることとの間には、隔たりがあるのです。この隔たりに関して、教育哲学的に探究した人の1人が、ドイツの教育学者モレンハウアー[1928-1998]です。子どもの自己形成における内的過程の考察にあたって、モレンハウアーが注目したのが「美的経験」でした。例えば「美的経験」の1つである芸術活動(音楽や美術、詩など)においてあらわれる、自己との反省的関係(自己を批判的に見つめる視点など)に、人間形成論の1つの契機を見出したのです。

 

Q その研究を始めたきっかけを教えてください

 大学3年生の時、小・中学校での教育実習を経験しました。その中でも私が実習を行った小学校では、「子どもの主体性を重視する」ことが特に強調されており、「子どもたちが授業に集中できないのは、(その教材を与えた)教師が悪い」「授業中に子どもたちがどんなことを始めても、注意せずに教師は見守る」というスタンスでした。その結果、授業が成り立たない日もありますし、計画とは全く異なる授業を展開することもありました。このような「とにかく子どもに寄り添う」姿勢はとても大切だと思った一方で、「教師の役割」とは何だったのか、深く考えさせられました。また、「子どもの主体性」とは一体何を指すのか、実習を終えた後でますますわからなくなってしまいました。上記のことがきっかけとなり、大学院で学び続ける選択をしました。大学では音楽教育を専攻していたのですが、私が深めたい内容は「教育学」とりわけ「教育哲学」の分野が適していると考え、大学院進学の際に転向しました。

 

Q その研究が『未来にどう生かされてほしいか』教えてください

 学校(幼稚園を含む)や保育園が、子どもたちにとって魅力的な場所となり、さらにそこで働く教師や保育者が、高度な専門職者として認められる世の中になると良いと考えています。例えば、幼児期に絵を描くことが大好きだった子どもが、小学校へ入学してからもずっと好きでいられるような教育が必要だと感じます。もちろん、小学校へ入学すれば視野が広がり、興味の対象が変わっていくことは何の問題もありません。ただし、小学校での教育方法や評価方法により、嫌いになってしまうことは避けなければなりません。子どもたちの自由な「表現」を適切に評価することは、実はすごく難しいのです。表現の背景にある「意図」や「思い」などの主観的な要素を、客観化・数値化して評価すること自体が馴染みにくいのも要因です。 上記のような課題と向き合うためには、「教育学」「保育・幼児教育学」「芸術教育学」「哲学」「美学」「芸術学」など、それぞれの知を高いレベルで統合し、理論と実践を繋ぎながら研究を進めることが必要です。

 

◆高校生へメッセージをお願いします

 未来を生きる子どもたちのために! 無限の可能性をもつ乳幼児期を支えてみませんか? 人口が減少しつつある現代社会において、子ども1人1人の個性を認め伸ばしていくことは、これまで以上に重要です。みなさんは、幼稚園や保育園での出来事を覚えていますか? 楽しかったこと、悲しかったこと、お世話になった先生のこと・・・。そんな、子どもたちの記憶に長く残る、人間性豊かな保育者をめざしましょう!

 

プロフィール
短期大学部 保育学科 前田 舞子 助教
 静岡県出身。筑波大学大学院教育研究科、広島大学大学院教育学研究科博士課程前期修了。広島大学大学院教育学研究科博士課程後期在学中、広島県立三次看護専門学校、エリザベト音楽大学での非常勤講師を務め、2015年広島大学大学院教育学研究科特任助教に就任。その後、鳥取短期大学幼児教育保育学科助教を経て、2021年から現職。共著に『教員養成を担う「先生の先生」になるための学びとキャリア』(溪水社、2019年)、『新・教職課程演習 第7巻 道徳教育』(協同出版、2021年)、単著に「陶冶=人間形成論と『美的経験』―K.モレンハウアーを中心に―」(『鳥取看護大学・鳥取短期大学研究紀要』第80号、2020年)、「芸術教育の評価基盤に関する研究―芸術における表現概念と芸術科における表現活動の視点から―」(『教育学研究紀要』第66巻、2021年)などがある。

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