学部学科トピックス

2023.10.13
理学療法学科

【研究者紹介】「スポーツにおける肩関節不安定症の運動解析」 松井 一久 准教授

本学の教員が、研究者としてどのような研究をしているかインタビューした「研究紹介」シリーズ。今回は松井 一久 准教授です。

 

医療科学部 理学療法学科 松井 一久 准教授

専門分野
スポーツ障害、運動器疾患、徒手理学療法

◆研究テーマ
スポーツにおける肩関節不安定症の運動解析



【動画】

Q 研究内容について教えてください

MRIという画像検査機器をご存知ですか? MRIは私たちの身体の内側の様子を見ることができる特殊な機械です。研究ではこのMRIを使って、運動中の肩関節の中の動きを撮影し、その画像データをコンピュータで解析することで、肩の関節の不安定さを数値化する手法を開発しています。
対象としている不安定な肩は、水泳や投球動作のような肩を繰り返し使う競技にみられるスポーツ障害の一つです。肩の不安定さ、だるさや痛みを訴えられることが多いのですが、脱臼のように肩が外れた状態とは違うため、運動中の症状を画像や数字で表すことが難しい障害です。
MRIは静止している身体を撮影してどこに傷めた組織や病気があるかを見つけ出すための検査機器ですが、この研究ではMRIの撮像速度をあげて身体の運動中の肩関節の中を連続して撮影しています。これをコンピューターで解析し、機能的な障害を目で見て確認し、数字で表すことができるように取り組んでいます。

 

Q その研究を始めたきっかけを教えてください

研究の対象としているスポーツでみられる肩関節不安定症は、明らかなケガをきっかけとしませんが、運動中に不安定な感じや痛みを引き起こします。
理学療法における運動療法は肩関節不安定症の治療の一つですが、この症状のはじめや治った後の状態を評価する際には、選手自身の主観的な意見や理学療法士の徒手的な検査に頼らざるを得ず、他の医療従事者との情報共有が難しいという問題がありました。理学療法士の徒手的な検査は熟練度を要するため、理学療法士であれば誰でも行えるというわけでもありません。
そこで、肩関節不安定症の症例において、健常な肩関節と比べて運動時にどの程度不安定であるかを数値的に評価する方法を開発することにしました。具体的には、肩関節内で骨が移動する距離(ぐらつき)を数値化することで、スポーツ選手、一般の方、他の医療従事者が肩の不安定度合いについてわかることをめざしました。
下記写真は全て患者・研究協力施設からの同意を得て掲載

 

Q その研究が『未来にどう生かされてほしいか』教えてください

スポーツ選手が肩関節に感じる不安定な感じや痛みを検査する方法は、医師・理学療法士の徒手による検査からの判断に頼っており、高い臨床技術と経験が必要です。この研究の目的はスポーツ選手だけでなく、一般の人でもわかるように、動作中の肩関節の不安定症を視覚化・数値化することをめざしています。
もし検査所見を視覚化・数値化することができれば、競技に復帰するために必要な肩関節の安定性を判断する指標として利用できるようになります。また、改善の度合いも選手にわかりやすく伝えることができると期待しています。これにより、スポーツ選手たちは自身の肩関節の状態を客観的に把握し、適切な治療を受けながらトレーニングを行うことができるようになるかもしれません。
スポーツ選手や肩の不安定な感じ、痛みを抱える人々にとってこの数値化は、重症度や治る過程を知るために非常に役立つものです。また、不安定な肩関節を早期に発見し、予防のためのトレーニング方法の指導を受けることで、より長く選手として活躍できるかもしれません。

 

◆高校生へメッセージをお願いします

リハビリテーション職の1つである理学療法士は、患者さんの問題を把握し、その方が将来どのように生活していくかを考えながら治療を行います。
この仕事には多くの勉強と臨床技術の習得が必要ですが、患者さんの変化を近くで見守ることができるやりがいがあります。もしあなたが医療に興味があり、人々の健康を支える仕事に関心があるのであれば、医療科学部理学療法学科での学びは自身の成長とともに、魅力的なキャリアパスとなると思います。

 

プロフィール
医療科学部 理学療法学科 松井 一久 准教授
国内の大学院にて肩の不安定症について研究し、学位(理学療法学修士、リハビリテーション療法学博士)を取得する。
国外の大学院では整形外科疾患(運動器疾患)とスポーツ障害の理学療法について臨床技術を学び(徒手理学療法およびスポーツ理学療法修士)、運動器徒手理学療法認定士(日本筋骨格系徒手理学療法研究会 国際会員)を取得する。
約25年の整形外科疾患とスポーツ障害理学療法の臨床経験をもつ。現在は日本筋骨格系徒手理学療法研究会理事として当研究会に貢献中。